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HA1: ヘッドホンアンプ

終段のエミッタ・フォロワを汎用トランジスタで構成したダイヤモンド・バッファとし、 歪の懸念要素をオペアンプで希釈した定番回路です。 オペアンプを使うことには若干の抵抗がありましたが、 実際には気になるほどでもなく、 ヘッドホン・アンプとして個人的にまずまず満足できる音質が得られました。

蓋を開けて内部を撮影した画像

箱は使いまわしのため、余計な穴があいていたりマイカが張り付いています。 左側に見える基板がアンプ基板で、少々判りづらいですが L/R の2枚スタックです。 右側が電源基板で、基板中ほどからアンプ基板に向かって電源配線が生えています。

特徴

簡易ながらもDCアンプのため、重低音が出ます。 この特徴を損なわないために電源バイパスをやや重く施しました。 ポータブル機では得にくい重低音と高音を確保できました。

DC/DCコンバータを介して±5Vの電源を生成しており、 アンプ回路を正負電源で駆動しています。 5V のACアダプタが基本ですが、4.5〜5.5V の NiMH 電池でも動作できます。 電池ボックスからDCプラグを通して電源を供給します。

電源投入時のポップノイズは無視できる程度です。

気になる程の雑音はありません。 単なるボルテージフォロワに近い回路なので、ボリュームを最大側に回し切っても大丈夫でしょう。 携帯音楽プレーヤ等を接続するなど、 ソース機器側で音量調整できる場合は本回路側のボリュームを実質的にバイパスする使い方ができます。

無調整です。 電流計や電圧計とにらめっこしながら調整するトリムポットはありません。

回路図

アンプ側の回路

片チャンネル分のみ示します。 同じものを2つ実装してケースに組み込みます。

回路図

回路図

アンプ回路の設計について

回路図をご覧のとおり、オペアンプとダイヤモンドバッファの平凡な組み合わせです。

通常は非反転式でアンプを組みますが、 本回路では音質面で有利とされる反転式で組んでいます。 反転式アンプですので、マルチチャンネルでスピーカを駆動するプリアンプとしては使えません。 本回路はヘッドホン専用です。

以下、出力から入力に向かって簡単に説明します。

出力結合コンデンサ

この回路には、出力結合コンデンサがありません。 オペアンプが DC バイアスの制御を行っています。

終段エミッタフォロワ

終段トランジスタは SEPP 構成で、 終段 NPN トランジスタがソース電流を、同じく PNP トランジスタがシンク電流を担当します。 クロスオーバ付近では NPN と PNP の双方のトランジスタが ON になりますが、 アンプとしては AB 級 から B 級のぎりぎりのラインを狙っています。

トランジスタが負担する出力電流は最大 100mA と見積もっています (電源モジュールが 100mA までです) が、 音質的な意味では、もう少し余裕をみても良かったかも知れません。

出力振幅が電源電圧ぎりぎりまで振れることはもともと想定しておらず、 16Ωのヘッドホンで1V程度まで振れれば上等と考えたことから、 試作の段階では Vce 減少による hFE の低下は検討しませんでした。

終段トランジスタのエミッタ抵抗10Ωは、 入手しやすい値 (在庫している値) として決めてかかりました。 ヘッドホンアンプとしては常識的な値に収まっていると思いますが、 心情的にはやや大きすぎたかなという感もあります。 この抵抗は、終段トランジスタの Vbe のバラつきによる影響を抑え、 ひいては熱暴走を予防する働きをしてくれることが期待されています。

ヘッドホンを駆動する電力は、 電源をデカップリングしている電解コンデンサから調達されます。 電解コンデンサの選択は音質に影響を与えるはずです。 配線する場合は、電源のデカップリングコンデンサを出力結合コンデンサとみなして結線します。 また、電源のデカップリングコンデンサには、出力結合コンデンサに準じて余裕のある容量を設定します。 試作では、3本の電解コンデンサをパラにして、インピーダンスの低減を試みました。

ドライブ段エミッタフォロワ

ドライブ段に流すエミッタ電流 Ie は、終段の最大ベース電流 Ib でもあります。 出力電流を 100mA と見積もったのは前述のとおりで、 ここから終段の hFE の期待値を 100 として、 ドライブ段の電流は 1mA で足りるとしました。 もう少し余分に流す設計でも良かったかもしれません。

ドライブ段のエミッタに挿入した10Ωの下駄には、 終段トランジスタにバイアスをかけてアイドル電流を増やす働きが期待されています。 オペアンプが忙しくなりすぎない程度の、最小限ぎりぎりの値としました。

ドライブ段のベース側にある抵抗 100Ω は、発振防止のためのおまじないです。 配線を長く引き回すようであれば省略しないほうが賢明と思いますが、 短く済ませられるなら要らないとも思います。 実装する場合はトランジスタのベース側に極力近接するよう配置します。

ドライブ段のベースは200kΩ程度以上のインピーダンスを持ちますので、 ベース側に100Ω程度を挿入しても全体的な動作としては誤差範囲です。

オペアンプ周辺

オペアンプは、ダイヤモンドバッファ回路の実装で生じる面倒くさい問題を抑圧するために使っています。 ダイヤモンドバッファ回路の各素子の温度変化で生じるドリフトを抑圧します。 トランジスタのバラつきや半導体素子の特性がもとで生じる歪を抑圧します。 ダイヤモンド回路出力点の DC バイアスをグラウンド電位と同等に維持します。

設定したゲインは Av = -1 です。 ヘッドホンアンプにゲインは必要ないだろうという経験則と、 実運用上はなるべくボリュームをバイパスしたいなあ、という希望のもとで設定しました。

帰還抵抗は入力側の負荷が重すぎず軽すぎずで10kΩ前後に選びました。 ここの抵抗は音質を支配することが予想されており、物量を奢ってみる余地があります。

オペアンプは2回路のうち片方をボルテージフォロアにして遊ばせています。 これは L/R 別個の基板に組み立てたためです。 こうすることで、オペアンプ内部での L/R 相互干渉 (クロストーク) を減らすことを狙っています。

オペアンプの電源バイパスコンデンサは積層フィルムです。 このコンデンサはオペアンプの安定動作を担保する働きが期待されており、省略できません。 このコンデンサはオペアンプに近接して配置し、できるだけ短く配線してください。

入力結合コンデンサ

通常の、常識的な機器であれば DC が漏れていたりはしないとの期待から、 試作では入力カップリングコンデンサを省きました。 もしソース機器が DC 漏れを起こしている (またはその恐れがある) 場合は、 2.2uF 程度の積層フィルムコンデンサで DC を遮断してください。

アンプ回路の部品選定について

オペアンプ

オペアンプには2回路入り NJM4580DD を L/R 1石ずつ使っていましたが、 後日になって MUSES8820 に交換しました。 2013/12 現在、追試されるなら MUSES8820 での実装をお勧めします。

オペアンプとしてその他の代替品については、データシートと相談して決めてください。 次の条件を満たすオペアンプであれば、たいていのオペアンプが使えるとは思います:

オペアンプは、 本回路において音質的ボトルネックを構成すると考えられますので、 いろいろ交換して楽しむ余地があると思います。

トランジスタ

ダイヤモンドバッファ回路のトランジスタには、 東芝の 2SC1815 と 2SA1015 を使いました。 厳しく選別する必要はないと思っていますが、 念のため使用するトランジスタの hFE ランクぐらいは揃えてください。 2SC1815 / 2SA1015 としては、GR ランクが入手しやすく、おすすめです。 多少のアンバランス、多少のドリフトはオペアンプが吸収します。

ダイヤモンドバッファ回路を構成している各トランジスタの熱結合処理はしませんでした。 ここのトランジスタが熱結合を必要とするほどの電力を消費することは想定していません。 短絡保護すら組んでいませんので、長時間の出力短絡は避けてください。 熱結合する場合は、教科書通りにドライブ段と終段の間を結合してください。

代替品についてはデータシートと相談してください。 UTC製 2SC1815 / 2SA1015 も使えると思います。 東芝製 2SC1815 / 2SA1015 のほかに東芝製 2SC2240 / 2SA970 も面白そうです。 ヘッドホンアンプ終段用の石としては東芝製 2SC2120 / 2SA950 も有力ですが、 Y ランクでは若干ゲインが足りませんのでバイアス電流を増やす必要があると思います。

バイパス用コンデンサ

容量の必要な低周波デカップリングは電解コンデンサに任せました。 銘柄の指定はありませんので、お好みで選択してください。 使用したのはニチコンの HZ シリーズです。

オペアンプの安定化に必要なデカップリングは積層フィルムに任せました。 銘柄の指定はありませんので、お好みで選択してください。 使用したのはニッセイの MMT シリーズです。

ボリューム

本回路では、アンプとしての仕上がりゲインを比較的低く取ってあり (Av = -1)、 ポータブルプレーヤ等のイヤホン端子をソースにする場合には、 本回路のボリュームを最大側に回しきって実質的にバイパスしてしまう運用ができます。 アンプ側のボリュームを絞ったほうが良いのか、 プレーヤ側のボリュームを絞ったほうが良いのかは場合によりけりだと思います。

私が実装で使用したボリュームは無名品です。 50kΩ Aカーブ品を使っていますが、 これは単に旧作のケースとボリュームを使いまわしたためです。 追試される場合は、 ライン配線で無用な雑音を拾わないよう10kΩから20kΩ程度までの 小さめの抵抗を使われることを個人的にはお勧めします。

銘柄に指定はありません (よく知らないので)。 お好みの銘柄を使ってください。

その他の部品

実装にはブレッドボード互換の万能基板を使っています。 グラウンド配線には銅箔シートを基板中央に貼って使うと便利です。 ブレッドボード互換の万能基板を使用しますと、 それだけで部品配置がだいたい決まってしまいます。 部品配置は適当に処理してください。

アンプ周辺に使用した抵抗は、 ボリュームとダミーアンプの帰還抵抗を除き、 1/4W 型の金属皮膜抵抗です。 オプションとしては、 メインとなる負帰還抵抗あたりに 1/2W などの大型品を奢ってみるのも良いかと思います。 より廉価で一般的な炭素皮膜抵抗器でも動作に支障はないはずですが、 曲がりなりにも音質を気にするオーディオアンプ回路です。 実装には雑音の少なそうな金属皮膜抵抗を採用しました。

電源回路

回路図

電源回路の設計について

回路図にある MAU106 (±5V 出力の絶縁型 DC/DC コンバータ) は、 本回路においてキーパーツになっています。 出力を短絡させると波形が鈍り、 フィルタしづらいノイズが増えますのでご注意ください。 MAU106 は発振波形をトランス昇圧して整流しているだけのコンバータで、 いわゆる定電圧レギュレータではありません。

追試する場合はMAU106の入力電源端子とMAU106の出力端子のGND側の間にセラミックコンデンサを挿入して、スパイクをバイパスしてください。 この対策方法は電源モジュールメーカのアプリケーションノートに記載がありますので探してみてください。

MAU106 出力側に配したコイルは、実際にはフェライトビーズです。 実装ではフェライトビーズとセラミックコンデンサを合体した専用の ノイズフィルタ部品を採用しました。

回路図にある電源バイパスの電解コンデンサのカタマリは、 実際にはアンプ基板側に実装しています。 MAU106 自体のインピーダンスはあまりアテにしておらず、 コイル(フェライトビーズ)でアイソレーションして、 周波数特性についてはコンデンサに任せる設計です。 ここで電源バイパス用コンデンサに結構な容量を奢っているのは重要で、 (主観的な判断ですが) 音質によく効きます。 電解コンデンサ自身の抵抗成分を低減する意味でも、 2〜3本ぐらいパラにするとよいでしょう。 実装では耐圧6.3V程度の、 いわゆるPCマザーボード用の電解コンデンサを採用しました。 固体電解コンデンサを使うことで容量をケチることができるかどうかは、 試していないのでわかりません。

主電源には 5V のACアダプタを接続して利用します。 4セル直列にした NiMH 電池も使えます。

部品表 (BoM)

Category Description Reference Quantity Remarks
C1800uF, 6.3V, 電解コンデンサ (Nichicon HZ)- 12電源のデカップリング用、アンプ基板側に搭載
C470uF, 16V, 電解コンデンサ (Nichicon) - 2電源のデカップリング用、電源基板側に搭載
C0.1uF, 50V, 積層フィルムコンデンサ - 4オペアンプ直近の電源デカップリング用
NF0.022uF, ノイズフィルタ - 2フェライトビーズを含む
UMAU106, +5V/-5V電源モジュール, MINMAX- 1-
UNJM4580DD, 低雑音オペアンプ, JRC- 2L/Rそれぞれに1本使用。試作初期の動作確認用などに
UMUSES8820, 低雑音オペアンプ, JRC- 2L/Rそれぞれに1本使用。設計上はNJM5532等でも可(のはず)
U5V, ACアダプタ- 1-
Q2SC1815 GR, Toshiba- 4NPN 2本 + PNP 2本1組で大雑把に選別
Q2SA1015 GR, Toshiba- 4NPN 2本 + PNP 2本1組で大雑把に選別
R10Ω, 1/4W, 金属皮膜抵抗- 8-
R4.7KΩ, 1/4W, 金属皮膜抵抗- 4-
R100Ω, 1/4W, 金属皮膜抵抗- 2-
R12kΩ, 1/4W, 金属皮膜抵抗- 4-
R10kΩ, 1/4W, 炭素皮膜抵抗- 2使わないオペアンプユニットの電位固定用
R470Ω, 1/4W, 炭素皮膜抵抗- 1LEDの電流制限用
VR50kΩ, 2連, Aカーブ, 可変抵抗- 1-
LEDLED- 1シャーシ取り付け
CNφ3.5型, ステレオフォーンジャック- 2シャーシ取り付け
CNφ2.1型, 汎用DCジャック- 1シャーシ取り付け
SW2P トグルスイッチ- 1シャーシ取り付け

部品のほとんどは秋月と千石で調達しました。 2SC1815等、一部ディスコンになっている部品がありますが、 互換性のある類似品が入手可能と思います。

備考

電源 ON/OFF 時に発生するポップノイズは無視できる程度です。 出力カップリング・コンデンサの省略も電源モジュール MAU106 とオペアンプのおかげです。 ポップノイズの少なさについては、 電源モジュール MAU106 の出力が正負対称であることが大きく寄与しているものと思います。

本回路のターゲットは16Ωから50Ω程度までのヘッドホンです。 具体的な機種を挙げると SONY MDR-EX800ST, FOSTEX T50RP です。 これ以上のインピーダンスを持つ高級ヘッドホンをお使いの場合、 ゲインを多少上げたほうが良いかも知れません。

後日談

2013/11/22

運用機に実装しているオペアンプを NJM4580DD から MUSES8820 に差し替えました。 もともと NJM4580 と MUSES8820 は姉妹関係にあるような石ですから、 差し替えても問題は起こさないと思います。

2024/03/09

アーカイブから記事を復帰しました。 HA2の製作をして基板交換をしましたので本機の運用は終了しました。 オシロスコープで計測してみるとメガヘルツ帯で信号が暴れますので、もう少し工夫が必要です。 オペアンプの入力から出力にバイパスをしたほうが良いでしょう。 詳しくはテキサスインスツルメンツ社のデータシートやアプリケーションノートを参照してください。


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